まみれた魔法使い

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「私にか? その――魔法使いだっけ? そんないかがわしい奴が、私に何の用だよ」 「おう。よく聞いた」  笑って、青年は続けた。 「お前を俺が、きっちり幸せにしてやるから、俺を楽しませろ」 「…………」  灰かぶりは、大きく首を傾げる。 「……プロポーズ?」 「違うわ!」 「じゃあ、何だよ」 「この街一番の薄幸娘のお前を、俺が魔法で幸せにしてやるから、俺の退屈しのぎに手を貸せって言ってんだよ!」  床を何度も叩きながら、青年は声を張った。  色々と、必死さが伝わって来る。 「薄幸娘って聞き捨てならないな。それに退屈しのぎだ? 魔法使いが退屈なんてするのかよ」 「魔法使いだから退屈するんだよ。習得するまで時間かけ過ぎちまったからな。人間関係なんて、全部断絶したし」 「あんた、まだ若いんじゃないのか? 魔法使いって、もっとこう……老婆とかかと思ってたぞ」 「魔法使いを見た目で判断するなよ。若く見えるだけだ」  灰かぶりの質問に、青年はそう答える。 「変に延びちまった人生は、退屈なもんなんだよ。悪さするのも性に合わないしな。俺の娯楽は、人助けぐらいだ」 「それで、私を幸せにか?」  呆れた様に言って、灰かぶりは内心で笑った。  おかしな事を言う。  今更、自分の日常をどうしてくれようと言うのか。  他人の助けなど、それ程不釣り合いな物はない。  そんな事のために――わざわざ、望みもしない手を差し延べに来たと言うのか?  灰かぶりは、薄笑った。  今度は、内心だけでなく。 「……物好きだねえ」 「魔法使いだからな」  当然の様に、青年は答えた。 「ただ、あまり興が乗る話ではないな。私をどうしてくれようってんだよ?」 「この家から出してやる。いや、出るだけじゃない。今後、生活には困らない財力もだ。幸せをくれてやる」 「幸せ……ね」 「何だ? いらないのか?」  青年の質問には答えずに、灰かぶりは考える。  今までの不釣り合いな日常は、果たしては不幸だったのかを。  毎日、当たり前に送って来た生活が、まるで幸福を持たないものだったのかを。  今まで――考えた事もないけれど。  自分は不幸だったのか? 「どうした……? 急に大人しくなったりして」 「なってねえよ。私は、いたって日常と変わらない」  灰かぶりは、そんな風に話を切り上げると、床から立ち上がった。
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