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元々、たいした興味もない彼女が、青年と長話をしなければならない義務はない。
「あんたに構ってるほど暇じゃないんだよ。私には、仕事がある」
「はあ……予想外だ」
青年は、思わず額を押さえた。
皆さんは、お気づきだろうが、灰かぶりは決定的に青年の思惑から外れる要素を持っている。
あるいは、条件を満たしていないと言うべきか。
彼女には、『幸せ』と『不幸せ』の違いがわからない。
ただ、繰り返している彼女には、いまいち理解できない事だ。
彼女にとっては、幸せでも不幸せでもなく、ただの日常に過ぎないのだから。
二人の感性は、ずれている。
根本的に、違う。
例えるならば、灰かぶりは、ただただ現在を生きているし、青年は、ただただ未来を見ている。
二人は食い違っていた。
察しの悪い灰かぶりには、わかりえない事だけれど。
「……まあ、骨が折れた方が暇潰しにはなるんだろうな。お前がそんな奴でも、別にいい」
言って、青年は重い腰を上げた。
改めて、マントについた灰や埃を払う。
「帰るのか?」
灰かぶりの問いに対して、青年は首を横に振った。
「いやいや。出直す時間なんかねえよ。俺に時間は関係ないが、お前にはあるだろう。灰かぶり」
「時間?」
「早くしないと始まっちまう。遅刻は第一印象悪いからな」
「は? ちょっと待てよ。あんた、何する気だ?」
身構える灰かぶり。
しかし、青年はそれに動じる様子もなく、落ち着いた口ぶりで答えた。
「何って、魔法だよ」
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