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「ブハッ!!笑わすなって、なんて顔してんだ!!」
僕の顔を見るなり鈴谷さんは声を上げて笑い始めた。
「なっ!!そんな変な顔してましたか?」
「あーぁヤッパお前いいわ」
どくんーと僕の胸が鳴った。
鈴谷さんがジッと見つめた。
さらに僕の鼓動が速くなって、心臓が口から飛び出てきそうだ。
「からかってんですか?」
「んっ?」
「魔性か何か知らないけど、僕をからかって楽しいですか?」
僕は鈴谷さんの言っている意味が解らなくなって、棘のある言い方をしてしまった。
「…………」
鈴谷さんは黙った。
「からかってるつもりないんだけどな…」
聞き漏らしてしまいそうな位、小さな声で呟いた。
「けっこう、本気かも…俺」
前を見据えたまま自然に、当たり前のように言った。
そして僕を見つめた。
油断した。
目が合った瞬間、髪の毛一筋までも絡み取られてしまった。
僕は硬直した。
5月と言えども、陽の落ち始めた夕方の風は冷たく、僕の脇をすり抜けていった。
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