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そしてやっと、僕の部屋の物色をやめてくれた。
「何かあったんですか?」
僕はインスタントのコーヒーを出して、今日の訪問の理由を聞いた。
「うん?何が?」
「また、そーやって質問で返す」
「癖だ、気にするな」
悪びれる様子もなく、インスタントコーヒーの入ったカップをすすった。
「俺、日本代表合宿に召集されたから」
一息ついて、まるで他人ごとのようにあっさりと言った。
「えっ!?あの…、日本代表?」
僕は突然のことに驚いて、鈴谷さんは自分の事なのに誰か別の人の事のように話すしで、軽く脳内はパニックに陥っていた。
「他にも日本代表なんてあるのか?」
意地の悪い表情を浮かべて俺をからかう。
「違っ!!驚いただけっす、てかなんで鈴谷さんはそんな平然としてんですか!!」
「別に平然としてるつもりは無いけどな、初めての召集でもないし、実際に代表になれるのかもわかんねーし」
タバコの煙を一気に吐き出して、事も無げに言った。
「はぁ…そーゆうもんなんすかね?」
「さあな、俺にとってはそーゆうもんだ」
やっぱりと言うか、鈴谷さんは何があっても鈴谷さんなんだと、改めて思った。
「合宿…いつからなんすか?」
「来週から、悪い試合には一緒に出らんねーから」
「そう…ですか、」
「てか、俺いない方がお前も集中できんだろ…」
ほんの少しだけ、言葉の中に寂しさが紛れ込んでいたように感じて、鈴谷さんを見るもその表情からは何も分からなかった。
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