第一章

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日に焼け黒光りする肌、ぼうぼうに伸ばした硬そうな髭(ひげ)や眉、いたるところに大小様々な傷あと、切れ味の悪そうな錆(さ)びたエモノ、身にまとった狼や狐の何年も洗っていなさそうな毛皮。 その盗賊が総勢約三十名、必死の形相で彼女に向かって馬を走らせていた。 いや、彼女に向かってと言うのは少し語弊(ごへい)がある。 盗賊たちはただ燃え盛る炎を逃れようと走っていた。 「……っ!!」 少女は思わず、そのほっそりとした若木を盾にして根本に耳を塞いでうずくまる。 次の瞬間、空がちかっと瞬いた。 轟音は鼓膜を劈(つんざ)く勢いで辺りの空気を震わせた。石礫(いしつぶて)が凶器となって襲いくる。高温の熱風は人の肌をどろりと溶かした。 盗賊たちは少女の眠っていた若木の目と鼻のさきで一瞬にして全滅した。 少女はただ一人、若木に守られたようにうずくまったまま気を失っていた。 盗賊たちを襲った衝撃は若木の手前できれいに消滅してしまっていた。
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