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若木はまるで何事もなかったかのようにそこに立っていた。そこだけが青々と草が茂り、さわさわと軽やかな葉と葉のさえずりを奏でていた。
その根本に少女は眠っていた。
もうもうと上がる蒸気が収まったころ、空から白く大きな鳥が何羽も舞い降りてきた。
「ったく、やりすぎなんじゃないのー? ゼーエン隊長殿?」
言ったのはその鳥の一羽に乗った女性。白のぴったりとした動きやすい制服に身を包み、白のヘルメットを被った、少々つり目の美人だ。
おもむろにヘルメットを脱ぎ、くしゃくしゃと長い金髪を風に遊ばせる。
額に精霊使い特有の雫型をした小さな石が埋め込まれていた。色は橙。まるでみかんの果肉を宝石にしたようだ。
「あー、やっぱりヘルメットは蒸れるわ。」
「エクリーン! 騎乗の際はヘルメット着用が隊則だぞ!」
怒鳴ったのはきっちり被ったヘルメットからちらほら銀髪が零れる、いかにも神経質そうな眼鏡をかけた青年。
「うっさいわね。小姑みたいに。」
「こ、小姑………?」
「くくっ、悪いな、エル。どうもワガママな娘に育っちまってな。」
ゼーエンがエクリーンの代わりに詫びるが本当に悪いと思っているかは怪しいものだ。
「……隊長、そう思われるんでしたらヘルメット着用してください……!」
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