第十三章

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人の気配が無くなった部屋で独り目を閉じる。 思い浮かぶのは何度も夢で見た光景。 緩やかに崩れ去る神殿。 確実に終焉を告げる赤。 死の気配を纏(まと)わせながら、いつでも凛として立つその人は言葉を紡ぐ。 優しい声音(こわね)は聞こえなかった。 ただ目に焼き付いた。 ―――自由に、そして幸せに――― ファライルには何を言っているのか理解出来なかった。 何故ならファライルは鎖に繋がることで幸せだったから。 シゼルたちが自分のために縛られていることは不幸だと思うのに、自分がローレイユに縛られていることはまるで不幸だと思ったことも無かったのだ。 (わたしは、自由……。) 薄く目を開いて、ぼんやりと周りの気配を読む。 どうやら戦闘が始まっているらしい。 先程から轟音が鳴り響いている。 それに魔法の気配を無数に感じる。 (エクリーンたち大丈夫かな?) 侵略者に人間の攻撃は効かない。アーロットが力を変質させるとはいえ、普通よりも頑丈なはずだ。 (わたしも戦える力を持っているのに。) きゅっと唇を噛み締める。
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