第十三章

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リリシエラがファライルの力を封じず、記憶を封じたのは、発現した力が強すぎたため。 消滅という強い力を封じても、その封印が消されてしまう可能性があった。 だから、リリシエラは記憶を封じた。 力を使えるということ自体を忘れさせた。 それほどに強い力を持っている。 持ってはいるのだが、 (すぐに使い切っちゃうのよね。) ファライルはあまり負の気を食べないため、力がすぐに底を尽く。 (それでも役に立つ?) そう考えて思い浮かべるのは、シゼルの顔、それにルセイルや、ナナ。 そしてエクリーン。 「あの人は好き。」 ぽつりと呟く。 (この力なんて関係無く、ただわたしだけを見て信じてくれた奇特な人……。) 良く引っ張られた右手を開いてみる。 あの馬鹿力を思い出した。 (痛かったけど、暖かかった。) ズンっと岩壁が震える。 ファライルの眉間にシワが寄った。 「行こう。」 自分を守るための壁から出るための一歩を踏み出す。 ざわりと心が騒ぎ立てる。 みるみると支配されそうになる心を押さえ付け、握りしめた拳の中で、さらにきつく爪立てる。 (……っ、まだ、大丈夫。) 甘い感触に脳が蕩けそうだった。
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