第一章

6/36
前へ
/550ページ
次へ
そのクレーターの近く。なぎ倒された点在する木々の中に一本、奇妙な若木が生えていた。世間一般からすれば至極まともな、だが、今現在起こった事象からすると、とても異常な。そんな木をティーンは見つけた。 「隊長ー。木が倒れず生えています。」 ティーンは見たままをゼーエンに報告した。ついでに人差し指を下に向け、その位置も示す。 黄緑と緑の混ざった若草色の葉を鳴らし、ほっそりした落葉樹は場違いなほど清々しく、まだ熱の残る風に枝を揺らしていた。 「なんだ?」 その木陰になる部分には小さな雑草も見られ、黒々とした大地に場違いな場所が実際に存在していた。まるでそこだけ絵でも飾られたような、切り取られた空間。 「ふーん。まあ、いい。降りてみよう。」 ゼーエンは年々気になってくる白髪の増えた金色の髪をなでつけ、先達て地上に向かった。 焦臭い熱の残る地面近くに美白の大きな鳥は降り立った。 少女の耳に聞こえてくるのは音だった。 単なる音。 声という名の、音。 それは確に空気を伝い、震わせ、彼女に届いていた。 なのに懐かしいとしか分からない。 聞こえているのに意味が伝わらない。 だから少女は音だと思った。 ただの音と。
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加