第三章

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高くそびえる断崖絶壁を少しツバの広い帽子を押さえて見上げる女がいた。 余所行きのワンピース姿には不釣り合いな細身の剣が腰に携えられている。左手には旅行バッグが握られていた。 「へぇ、ここがフォーリスか。まったく見えないわ。」 彼女から見える光景は赤茶色の岩肌が剥き出しの壁ばかり。 フォーリスは段々畑状になっているため下からは上の様子が見えない。 前は壁。後ろは森。 「どうやって上に登るのかね?」 面倒臭そうに腰に手をやる。辺りに意識を集中させると魔法の気配が右方向からわずかに感じられた。 警戒しつつも近寄ってみるとぽっかりと開いた洞窟を見付ける。 「ごめんくださーい。」 返事は無い。もちろん彼女も期待していたわけではない。 慎重に見回しながら足を踏み入れた。 「うっわ、光虫。すごい数だな。」 中は暗いかと思われたが、大量に浮遊する光虫のお陰で仄(ほの)かに明るい。 虫とはいっても光虫は昆虫ではない。足などはなく、半透明の拳二つ大の球体で空気中をクラゲのように漂っている。その生体は未だに不明だ。 顔にぶつかりそうになる光虫を手で払い除けながら洞窟を進む。ぶよぶよとした見た目だが、ゼリーくらいの固さはあった。
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