聖夜の贈り物

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 街を彩るイルミネーションと、それをバックにここぞとばかりにイチャつく恋人達の群れを眺めながら、晶は溜息をついた。晶の隣に愛を語り合うべき恋人は、いない。 ――大昔の人間の誕生日を恋人同士でイチャこくイベントに仕立てあげたのはどこのどいつだ?まぁケーキ屋にとっては嬉しいイベントだけど。  悪態をつきながら、晶は店の鍵を閉めた。  晶はこの街でも1番人気のあるケーキ屋のパティシエ兼副店長である。今日はいよいよ明日に迫ったクリスマスに向けて予約のケーキの下準備をしていたので、帰りがいつもより2時間程遅れてしまった。あまりの忙しさに夕飯も食べそびれ、極度の空腹に足元が冗談抜きにふらつく。 ――軽く何か食べて帰ろう。  店から駅に向かうまでにファミリーレストランが2軒はある。そこでパスタでも食べて帰ろうと思っていると、晶は道路脇に見覚えのない店を見つけた。  こじんまりとしたその店は、外に出ていた黒板のメニュー表を見る限りイタリア料理の店らしかった。他の店は鬱陶しいぐらいのイルミネーションで店をクリスマス一色に染めている中、この店は店先にポインセチアを2鉢とドアにリースを飾っているだけだったのが、街のクリスマスムードに些か辟易していた晶には好印象だった。  窓から中を覗いてみると、客は全くいない。少し味に不安を覚えたが、今のこの空腹状態なら腹に入りさえすれば味なんて気にならない。パスタならすぐ出てくるだろう。終電まで時間もないし、と、晶はその店に入ることにした。  ドアを開けると、チリンと鈴の音がした。中には豊かな白い髭を湛えた初老の男性が1人いるだけだった。彼は「いらっしゃい」と言うと、晶を大きな柱時計の前のテーブルへと案内した。 ――まるでサンタクロースみたいに立派な髭だな。  男性の姿を見て、昔絵本で見たサンタクロースの姿を思い浮かべる。もっとも、男性は多くのサンタクロースのように太ってはいなかったが。  店内はアンティーク調のランプの照明だけで薄暗く、それが逆に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。店の奥には大きな暖炉があり、時折薪の爆ぜる音が聞こえる。暖房よりよっぽど暖かい気がした。 ――こんな雰囲気のいい店があったなんて知らなかった。2年間もあの店で働いてていつもこの道を通ってたのにな。少し地味だから見落としてたのか?
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