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 大輔はしばらくただ呆然と玄関の前に立ち竦んでいたのだが、起きぬけで腹も空いてきたというのにまゆは暫く機嫌を直しそうにない。幸いジャケットのポケットに財布と携帯が入っていたので、駅前のファーストフード店でまゆの機嫌が直るのを待つことにしたのだった。 「ほほーう。お前ら相変わらずくだらないことで喧嘩してんなぁ」  洋平は2本目の煙草に火を点けながら呆れて言った。なぜか感心しているように見えるのは気のせいだろうか。大輔はコーラを啜りながら、やっぱりMサイズにしておけばよかったかと考えていた。 「ま、今回はお前が全面的に悪いな。それぐらいは分かってんだろ?」  大輔はああ、と小さく頷く。紫煙を燻らせながら、洋平は脚を組み替えた。その姿がイヤになるほどキマッていて、大輔はなんだか情けなくなってくる。洋平に1から説明していると、まゆが怒っていた理由を「くだらないこと」だと思っていた自分がヒドい男に思えてきたのだ。 「まぁまぁ、そんな顔すんなって。悪いこと言った、とは思ってんだろ?」  大輔は無言で頷く。その脳裏にはまゆの笑顔がよぎっていた。部屋から追い出されるほど怒らせたのは初めてだ。誕生日プレゼントに買った指輪のサイズが合ってなかったときにもここまでは怒らなかったのに。それを思うと急に不安になってきたのだ。源氏物語が理由で別れるなんて、何がどうあっても勘弁してほしい。 「なぁ、俺、どうしたらいいかな?こんなに怒らせたの初めてだし…こんなのが理由で別れるなんて、絶対イヤなんだ」  洋平の目を真っ直ぐに見つめる。洋平は暫く大輔の目を見ていたが、急に笑い出した。 「な、何がおかしいんだよ!」 「いやー、ひたむきな目ェしてんなぁ、と思ってさ。っつーかお前、分かってる?」  へ?と目を丸くして大輔は洋平の顔を見る。洋平は煙草を灰皿の溝に引っ掛けると、自分で買ってきたポテトを1本咥えた。 「こんな諍いが原因で別れたくない、そう思ってんのはお前だけじゃないんだよ。まゆチャンだって同じ想いなの。俺こう見えても源氏物語好きなんだ。いいネタ教えてやるから、それで仲直りしてこい!」  洋平はそう言うと、携帯を取り出して何やら操作しはじめた。少しして、大輔の携帯が着信を知らせた。見ると洋平からだった。
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