触れない距離

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触れない距離

暗い夜道 携帯を握る手が震える 春先と言うには、まだ夜は肌寒く、話す声も震えてる様に感じる 「あぁ聞いとるよ」 ぞんざいに答えるのは、それを隠す為か 促す話の先は、彼氏の愚痴でしかないのだが。何故何時も付き合うのか 理由には気付かないでいる 「そりゃひどいな」 玄関にもたれながら聞く話しは、仕事終わりから続いている 仕事終わりに届いた1通のメール 「うん、それで」 いつもの電話に、ほぼ変わらない内容 彼氏の悪意を感じる 後輩を悩ましたいのか、俺を悩ましたいのか 「許されへんな、でも許したいな」 曖昧な相槌をうつ自分の姿は、たぶん滑稽に写るだろう 求められた答えはなんなのだろうか 携帯を何度も持ち直すのは、寒さだけの為ではなく 「なんて?」 素直に気持ちを表現できる後輩は、微笑ましく疎ましい 鈍感を装う人間にとっては特に 「正論やな」 後輩が落ち着いてきた頃 今日も俺には、与えられた役をこなすだけで、精一杯だった 「家に着いたから、切るで」 感謝の言葉 それを打ち消すような電子音 断ち切れたのは電話だけだろうか まだ部屋には入れなく。春先といえ、夜はまだ寒い
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