紛い物

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紛い物

あなたの香りを感じた その瞬間から、今隣で寝ている男は意味を持たなくなった わたしを優しく愛撫するはずだった大きな手も 力強くKissしてくれそうな口、舌 傷のつけがいが有りそうな背中 それら総てが価値のあるものにうつったのに 情熱的な男の誘いに熱を帯び 抱かれた 奪われた でもこの男は、わたしの何を奪ったのだろう 心は既に奪われている 抱かれたのは身体だけ その身体も、この男のものでは、なに一つ感じなかった 情事の後で、幸せそうに寝ている男 いとおしく思えないのは、この男のせいではない、が 彼は一体、なにを手に入れたつもりなのだろうか わたしはこの男を抱きたいとは思わないし 男から奪いたいものも、なに一つないのに あなたの香りを感じた、から
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