人で在るために人に隠された里

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―― ―…ハァ― ――――…ハァ (もうどれくらい歩いたんだろう…時間も分からない) 鈴音は椿姫を抱え歩き続けました …暗闇は視界を奪い、沈黙は感覚さえも奪っていきます 鈴音は傷の痛みと 肩に感じる椿姫の温かさを頼りに精神を保っていました ――…ズル ――――…ズル 椿姫の身体は青白く、だんだんと冷たくなってきていました (…椿様っ…いそがなきゃ…) 鈴音も限界が近づいていました 腫れた左足はもう感覚もなく、 ただ気力と椿姫を助けたい精神だけで歩きつづけました ―――…ズル ――…ズル (…誰か…お願…い…) 鈴音は、薄れゆく意識の中でただひたすらに川を下りました ―ヒュ…ウ (…!…風っ…) 冷たい風が鈴音を吹き抜けました その風の方へと導かれるように鈴音は歩き出しました (…きっと…誰かが…) 大量の出血で目の前が暗くぼやけてきました 足元は覚束かず、ふらふらと鈴音は歩きました ――…ズルっ ――――ズ…ル… …ズ…―カクッ (……椿…様…――) 鈴音は意識がなくなり まるで、眠るように足元からゆっくりと倒れました その上には愛しい椿姫を護るように抱えながら…
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