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後ろ手に扉を閉めて一歩部屋に踏み込むと、朝日の眩しさにクレアは思わず目を細めた。
―――相変わらず、明るい部屋だな…
遺品整理という名目で、朝イチで父の部屋の合鍵を借りた。
部隊長の立場にあるクレアやフィラノスも、一兵士である者よりは寮の部屋が広いが、モルグの部屋は更に広い。
幼いころは3人で暮らした場所だ。
部屋というより、家である。
父が書斎としていた場所に、足を踏み入れる。
真正面の机の上にある、写真立てを手に取った。
物心ついたときから変わらずそこにある、写真。
赤ん坊のクレアを胸に抱き、空いた手を幼いフィラノスの頭に乗せて微笑む女性。
クレアにとって唯一の、母の記憶だ。
亡くなったのは彼が2歳のときだから、生身の記憶はもちろんない。
写真だけが、記憶。
5つになっていたフィラノスには、微かに記憶があるらしいが、そればかりは羨んでも仕方ない。
写真立てはずっと同じ場所にあり、埃を被っていたことはない。
父も、きっとよく手に取って眺めていたんだろう。
涙がこぼれた。
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