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季節は春。
柔らかく暖かな日差しと少し冷たい風が心地のいい日である。
「さくら、きれいだねっ。」
「だねっ。」
桜並木を歩く同じ顔をした二人の少女、雪乃と花乃は肩で切り揃えられた髪と桜と同じ色の淡い桃色の着物を風に揺らしながらそう言った。
「ちゃんと前を見て歩かないと危ないぞ。」
後ろから声がした。
30代半ばらしき、濃紺の着物に身を包んだ落ち着いた雰囲気をもつ男、柿原宗之助は娘にそう告げた。
「だいじょーぶだもん。」
「だもん。」
二人はそう言うと顔を見合わせ、にっこり笑って
『ねー。』
と相槌をうった。
桜並木を通りすぎ、角をいくつか曲がると立派な屋敷が見えてくる。宗之助は久し振りにこの屋敷の主である友人に会いに来たのである。
屋敷の中は骨董品などか多数飾られており、主人の趣味が窺えるものとなっている。
客間に通されしばらく待っていると襖が開き、ガタイのいい男が入ってきた。
「久しいな、宗之助。何年ぶりだ?お前さんと会うのは。」
この屋敷の主、柳川柴喜代は整えられた髭をさすりながら言った。
「前に来たのは確か…4、5年ぐらい前だったような気がするが…」
「はぁ~。そんなに経つのかぁ。時が経つのは早いもんだな。」
柳川は、うんうんと頷きながら宗之助の後ろに隠れていた二人の少女に目を向けた。
「後ろに隠れてるかわいいお嬢さん方は、お前さんの娘か?」
「ああ。」
「ほら、お前たち挨拶しなさい。」
少女たちは、おずおずと前にでて
「はじめまして。柿原雪乃です。」
「花乃です。」
と挨拶をした。
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