638人が本棚に入れています
本棚に追加
祓がポツリと言葉を溢すやいなや、上弦を捜しに 部屋を飛び出して行ったのだ。
そして、どうやら見事に上弦を発見したらしい。
この誇らしげな表情が、それを表している。
今焔に尻尾があったとすれば、思いっきり振っているだろう。
しかし。
祓が上弦の名前を出した瞬間、焔は戸惑ったような顔をする。
いつもはっきりと物を言う焔がこんな表情をするのは、ひどく珍しい。
祓もそれに気付いたのか、小さく眉根を寄せた。
「焔。
もしかして、上弦さんに何かあったのか?」
心配そうに尋ねる祓に、焔はぶんぶんと首を横に振る。
そして、困惑気味の顔を持て余しながらも、口を開こうとして。
「それは、私から説明させて頂きます、祓様。
今御輿様と神楽様を呼びましたから、少々お待ち下さいね」
“隠”の術か。
唐突に焔の後ろに現れた影に、驚いた。
これだけは、何度やっても慣れない。
────というのもあるのだが。
それ以上に祓は、ここにいるはずのない人物に、驚かされた。
「ゆっ…梼浬殿っ?」
梼浬だ。
彼は忍家実務集団の長で、ここから遠く離れた地にいるはず。
なのに。
「な、何でここに?」
最初のコメントを投稿しよう!