638人が本棚に入れています
本棚に追加
余りにも驚いたためか。
祓はギョッとしまま、梼浬を見て固まる。
そんな祓に、梼浬は一礼した。
「先週は、お世話になりました。
ご挨拶が遅れたこと、お詫び申し上げます。
十六夜 祓様も、ご健勝のようで何よりです」
難しい言葉遣いに、祓の頭が更に混乱する。
しかし。
自分が“元気で良かったです”と言われているのだけは何とか理解して
「梼浬殿も、ご健勝のようで何よりです。
そのことなら、気にしないで下さい。
俺達が、勝手にしたことですから。
……それ以上に、謝るのはむしろ此方だと思いますし……」
いかにも手慣れたように、その言葉を使う。
そして、そっと目を伏せた。
祓の長い睫毛が瞳を覆い、影をつくる。
“滅が牢の中にいる”
それを思い出して、祓の心がさざ波をたてる。
しかし、それをぎゅっと目を瞑ることで抑えると
「兎に角、気にしないで下さい。
それよりも、梼浬殿が此処にいる訳を聞きたいんですが」
わざと、先程よりも明るい声を出す。
そしてにっこりと笑って、梼浬に話を促した。
最初のコメントを投稿しよう!