再会

5/6
前へ
/160ページ
次へ
 清掃員は俯き加減にワゴンを押して川上のそばまで来ると、置いてあったプレートを持ち上げて次の場所に置いた。   そのすれ違いざまに、川上は清掃員の口元に小さなホクロがあるのを見た。   色白の、まるで日本人の肌の白さとは思えないほどの、それは『透き通る』という表現が浮かぶほど、その清掃員の肌は白く美しく川上の目に映った。   清掃員の淡い紅毛と口元のホクロに、川上は胸の奥底の何かが呼び起こされたような気がした。   そのとき、待合室のテレビがニュースを伝えた。   午後三時台のスポーツに関するニュース番組で、画面では人気の女子アナが、今日本で行われている柔道の世界選手権大会を伝えていた。   《昨日行われた世界柔道選手権大会、女子48Kg以下級に出場した日本の田村亮子選手は…》   「柔道…か…」   川上は‘柔道’という言葉が我知らずして口から漏れた瞬間、ハッとして後ろを振り向いた。   清掃員がモップを立て、テレビに注目してニュースに耳を傾けている。   画面に注目している清掃員の眼は、淡い碧い色をしていた。   その、ニュース画面を見つめる清掃員の眼を見たとき、川上は全身を電流が駆け抜けような衝撃を感じた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加