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随分とおおらかな女だ。信じやすく、扱いやすい。おおらかだと言うよりも愚かなのだと言った方が適切かもしれなかった。 だからあれを見初めたのだ。白くてふくよかで、美人とは言えない女で、然しおとなしく従順であった。はい、はい、といつでも笑って頷きよく働いた。 愛しているかと聞かれれば胸を張ってYESと答えられるが、恋をしたかと聞かれれば黙るしかない。それは向こうも同じだろう。   出会いはいたって平凡で、上司から言われて出向いた見合いだった。正直、所帯を持つことは面倒で仕方がなかったが、上司の面子を潰すわけにもいかなかったのだ。 適当に済ませて、断らせる心積もりだった。然し、会ってみればなんとも御しやすそうな女で、これならばと思った。   女は名を弥栄と言った。優しさだけが取り柄だという親の紹介に違わず、人のいい、ただそれだけの女。出身大学は聞いたこともない地方の大学だった。 それなりの教養はあるし、常識も礼儀も節度も弁えている。出過ぎた真似はしない。異性としての魅力はないが、妻として従えるには申し分のない女。 束縛も干渉も厭う私としては、これ以上の女も居るまいと直ぐ様めとる事を決めた。   私の求婚に、弥栄はただしおらしく頷いて見せた。文句も言わず、疑問も口にせず、ただ従った。 婚儀が些か控え目でも、なんの不平も言わなかったし、夫婦の寝室が別でも首を傾げなかった。 妻が従順であることは好ましい。 口数の少ない、やや無表情に近い妻を不気味に思いこそすれ、わざわざ手放して新しく見繕うほどのことでもなかった。 私が妻を『妻』にしておく理由は、ただそれだけだ。そう思っていたし、それが間違いでない時期もあった。 .
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