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毎日の買い物で知り合った奥さんに、夫について話してくれないかと言われた。愚痴くらい聞くわよ、とも彼女は言った。 愚痴の一つや二つ吐くのが普通だと言われたから、私はすごく悩みながら、一つだけ捻り出した。 「私にね、仕事のこととか、言ってくれないの。言われてもきっと分からないから、しょうがないけど」 他の奥さん達の愚痴は、たいていギャンブルだったり帰宅時間だったり、家事への不参加だったりだ。 でも、彼はギャンブルなんて全くしない。なんせ宝くじだって下らない夢物語だと言って、金が欲しいなら働いて稼いで貯める道しか選ばない人だし。 帰宅時間はほぼ毎日一定だ。決められた仕事を決められた時間内に終わらせて帰ってくる。それでもたまに遅くなるのは、人間関係がぎこちないと仕事にまで支障が出て、そうなるのが煩わしいから、らしい。 家事への不参加なんてうちじゃ当たり前だ。だって家事は私の仕事だから。それまで彼がやったんじゃ、私がいる意味まるでないじゃない。それに、仕事がないと私は何もできないし、何をしていいか分からなくて凄く困る。 他に何か言うこと、と思ったら、会話の少なさしか思い浮かばなかった。きっと、普通より少ないと思う。多分。 「私別に旦那の仕事なんて気にならないわぁ」 「私もよ、働いて稼いでさえ来てればそれでいーし」 あはは、と明るく笑うのに合わせて、私も笑った。私は何か可笑しいことを言ったのだろうか。変な人だと思われてたらどうしよう。 笑いはしたけれど、私はちっとも楽しくなかった。  
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