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「あまりよろしくないわねぇ……」
彼女はそんなことを言って、包丁を握っていた。
「なにが~?」
どこか間延びした彼の声が彼女のイライラを増幅させた。
「なにが~? って、タマネギよ! タ・マ・ネ・ギっ!!」
彼女は包丁でタマネギを刻みながら戦っていた。
……らしい。
「酷いのよ!! 鼻はつんつんするし、涙はでるし! あたしになんの恨みがあるって言うの!?」
「……それはタマネギの個性の問題だと思うけどなぁ~」
かみ合っているのかいないのか。
彼は格闘している彼女に対して、やはり呑気な返事を返した。
「個性はあって結構よ。問題はこのあたしに危害をくわえる事よ」
「……はぁ」
彼は深くため息をついて、彼女のいる戦場(とおぼしき場所)へ仕方なく赴いた。
戦場では、セーターにジーンズという軽装にエプロンをつけた彼女が、文字通り戦っていた。
「……念のため聞くけど、これ、何を作ってんの?」
惨憺たる戦場。というか、まな板。
そこに乗っているのは、もちろんタマネギ……とおぼしきもの。
「見て分かるでしょ!? ハンバーグよ!」
「ハンバーグ? ハンバーグって、あのハンバーグ?」
「『ハンバーグ』といえば、あのハンバーグに決まってるでしょ! バカ兄貴!!」
彼女はそう言って、タマネギ……とおぼしきものとの戦いを再開した。
「要するに、それはみじん切り?」
「……それ以外のなんだっていうのよ……」
彼の当たり前の質問の連続に、彼女は半ばあきらめたように溜め息をついた。
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