DEATH NUMBER

実験

「…630万だと？」
俺の通う大学には心理学講座もあり、簡単な実験に協力することで報酬が貰えるというちょっと手軽なバイトはあったが、千円弱～数千円程度のものであり、この額は異常であり、怪しいにおいを禁じ得なかった…が、今の俺にはうってつけ、お誂えぬきの実験と言って良かった。胡散臭さはぬぐい去れないが、募集人数が10人という少なさから、まず選ばれることはないだろうという楽観的かつ後ろ向きな考えと、何より今日が期日の6/20であり、迷っている余地が無かったことから、俺は魅入られるようにアンケートに答えるべく、応募ボタンをクリックしていた。多分選ばれるわけがないだろうという軽い気持ちで。でもどこか選ばれてくれという祈るような気持ちで。

コチッ

アンケートは、１ページ目は名前と電話番号と住所を記入する欄であった。そして、次のページに移ると、
「現在のあなたの身分を出来るだけ詳しく記入して下さい(社会人なら職場や役職を具体的に、学生なら学校名と所属学部やクラスまで、フリーターならアルバイト先まで)」
と書かれていた。
このとき、これはいわゆる「釣り」と呼ばれる類のもので、個人情報を得る目的なんじゃないだろうか、という疑念が湧き上がった。がしかし、既に名前住所電話番号を記入して「次ページへ」のボタンをクリックした以上は個人情報の中核を既に知らせたも同然であった。畜生、くだらないアンケートだったのかよ、と思ったが、もうこうなったらヤケだ、と正直に所属大学と学部を記入し、次ページに進んだ。どこかで630万という金、更には最低10万円保証の金銭欲が俺を引っ張っていたんだろう…金がどうしても必要だったから。
そして次のページには、
「この実験に応募した理由を詳しく記入して下さい」と書かれていた。
俺は、心理学実験に興味があるだとかそういう脚色を一切せず、事故を起こし、どうしても金が必要だから、藁にも縋る思いで応募した、と書き込んだ。
そして、次ページへをクリックすると、
「アンケートへの御協力ありがとうございました。もし選考を通りましたら１日以内にお電話をさせていただきます」
と記されていた。