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「!・・・・・・」 母は一瞬言葉を失った。 それは本当に偶然の出来事だった。 日奈子はいつものようにトイレに行きたいと佑樹に言い、佑樹は自然に日奈子の後ろをついて歩く。 母は買い物に行こうと思って、台所から玄関に向かおうとする途中だった。 台所から玄関、佑樹の部屋から2階のトイレ。 その間には、一階と二階を結ぶ階段がある。 今現在まで一度も起こらなかった偶然がその日初めて起こり、階越しとはいえ三人は見事に鉢合わせになった。 しかし日奈子と佑樹は母には気付いておらず、母だけが二人の姿を確認することが出来た。 それを見てようやく佑樹の今までの不審な行動や態度の意味が掴めた気がした。 次の瞬間、母は階段を駆け上がっていた。 「佑樹!」 * 妹は満面の笑みだった。 ここの所佑樹も母も忙しくて、遊ぶことはおろか余り構ってやることすら出来なかったが、やっと一段落ついたので皆で買い物に出掛けるようという話になった。 久し振りの外出に、妹がはしゃがない筈はない。 しかも今日は珍しく父も同行している。 休み自体殆ど無いに等しい父が、貴重な休みの日に家族と外出するということは、極めて稀な事だった。 佑樹も本当の所嬉しかったが、それ以上にその事実は妹をより一層はしゃがせた。 しかしそれもある意味何かが起こる前触れだったのかもしれない。 うららかな春の陽射しが差し込む昼下がり、気温は暑すぎず寒すぎずとても快適だった。 大通りには人や車が溢れ、佑樹たちもその中に溶け込むように家族4人、他愛もない話をしながらのんびりと歩いた。 妹は代わる代わる佑樹たちに絶えることのない笑みをくれていたが、その視線が突然別の方向に釘付けになった。 佑樹たちも自然とそちらへ目を向ける。 視線の先には、猫がいた。
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