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真っ黒な猫だった。
その体は陽射しをいっぱいに浴びているにも関わらず、あまり光沢を帯びていないどころかむしろ黒さを増している。
うららかな昼下がりの中にあって、そこだけはまるで深い夜の暗闇の様だった。
しかし妹は好奇を小さな体全体に表し、「ねこ~、ねこ~」と言いながら、一直線に黒猫目がけて走り出した。
この時佑樹は、その妹の様子から何らかの異常を感じとっておくべきだった。
しかし、突然勢いよく走り出した妹を皆止めることが出来ず、あっけにとられたようにその場に佇んでいた。
程無く妹は黒猫の近くまで辿り着いて抱き抱えようとしたが、猫はそこに最初から存在しなかったかの様に手にかかる寸前でするりと擦り抜けた。
「あっ」
思わず情けない声を上げる妹。
しかしそれにめげずに逃げ去る猫を一心不乱に追いかけ、どうにか捕まえることが出来た。
「つかまえたっ」
それは息を切らせた妹が、激しく上下する胸に黒猫をおし抱くのとほぼ同時だった。
キキイ!!・・・
ドンッ・・・。
ゴム鞠のように勢いよく地面から飛び跳ね、そして落ちた。
しばしの沈黙。
・・・しかし、
「!!!!!!!」
母の声にならない叫び声が、それを無理矢理打ち破った。
佑樹もそれで我に返り、急いで妹の元に向かった。
周りには早くも野次馬が集まり始めている。
妹の体からは全く血が流れていなかったが、逆にそれが酷く不気味だった。
そして、体を丸めた妹の手の中には元気な黒猫が佇んでいて、どこか淋しさの混じった鳴き声をあげていた。
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