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その日母は数年振りに2階へと続く階段を昇り、佑樹の部屋の前に立った。 ドア越しにもすえた臭いがたちこめ、付近には大きな綿埃がぽつぽつと存在している。 「佑樹」 「さん」づけはしていない。丁寧語を使う気も毛頭なかった。 しかしそれが、自然なことだろう。 そして一定のリズムを刻むようにドアをノックする。 しばらくは反応がなかったが、やがてけたたましい足音と共に物凄い勢いでドアが開いた。 「なんだよ!この部屋には近付くなって言ってんだろ!?」 鬼のような形相で早口にまくし立てる。 少し前なら母は驚いて後ずさっていただろうが、今日ばかりは後ずさるわけにはいかなかった。 怒鳴られても顔には仄かな笑みを絶やさぬままで、佑樹のことをじっと見ている。 「なんなんだよ。気持ち悪いな」 母の反応に違和感を覚えて訝しげな表情をする。 母は唐突に言い放った。 「お嬢さんは、元気?」 これには佑樹も面食らった。 ひた隠しにしていたわけではないが、少なくとも知られてはいないと思っていたのだ。 今まで多少の違和感程度の母の笑顔が、一瞬にして不気味なものへと化した気がした。 「何言ってんだよ、おばさん。気でも狂ったか?」 それでも白を切ろうとする。 しかし母は佑樹の言葉など意に介さず言う。 「食事は持って行っていたみたいだから死んでいることはないでしょうけど、運動とかはちゃんとさせてるの?」 「・・・」 佑樹は何も言わない。 「あのお嬢さんにも、百合子と同じようなことをしているんでしょう?」 母は間髪入れずに突き放した。 覚えず佑樹の瞳が所在なさげに動く。 「・・だって、仕方ないじゃないか」 殆ど聞き取れないくらいの小さな声で呟いた。 「ところで、あなたはずっと勘違いをしているみたいだから、今日ははっきり言うわ」 母の声に決意と力が加わる。
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