3/3
前へ
/29ページ
次へ
「百合子は、私たちが無理矢理親戚に預けたのではなくて、あの娘自身が私たちに何も告げることなく勝手に出て行ったのよ。 あなたがあまりに不憫だから、ずっと黙っていたけど」 佑樹の眼が驚きに見開かれる。 母親は自分の考えが間違っていなかったことを確信し、同時に今までの時間を深く後悔した。 その後悔が幾分言葉を鈍らせたが、それでもきちんと紡ぐ。 「あの娘もきっと、そのうち逃げ出すわ。・・・百合子みたいに」 しかし後半は言葉に涙が混じった。 「う・・・ぐ・・・、あああ」 気付けば佑樹の眼にも涙が浮かんでいる。 程無くその涙は眼から溢れ出し、号泣へと化した。 「もう、終わりにしましょう」 母はそれだけを言い残して背を向けた。 しかし佑樹の声は、一晩中家の中に響いていた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加