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「百合子は、私たちが無理矢理親戚に預けたのではなくて、あの娘自身が私たちに何も告げることなく勝手に出て行ったのよ。
あなたがあまりに不憫だから、ずっと黙っていたけど」
佑樹の眼が驚きに見開かれる。
母親は自分の考えが間違っていなかったことを確信し、同時に今までの時間を深く後悔した。
その後悔が幾分言葉を鈍らせたが、それでもきちんと紡ぐ。
「あの娘もきっと、そのうち逃げ出すわ。・・・百合子みたいに」
しかし後半は言葉に涙が混じった。
「う・・・ぐ・・・、あああ」
気付けば佑樹の眼にも涙が浮かんでいる。
程無くその涙は眼から溢れ出し、号泣へと化した。
「もう、終わりにしましょう」
母はそれだけを言い残して背を向けた。
しかし佑樹の声は、一晩中家の中に響いていた。
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