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車内に漂う重苦しい沈黙。
静かな時間がどうにも苦手な私は何事か告げようとしたが、言葉は見つからない。
簡単な台詞で良い筈なのに、二人の顔や情況を考えるとそれは口から出て行かなかった。
四苦八苦している内に、気付けば目的地に着いていた。
平日だからか車の量は少なかったようで、そういえばあまり停車することもなかった気がする。
父が財布から一万円札を取り出すと運転手はあからさまに嫌な顔をしたが、父の視界の中には入っていないようだった。
機械的にお釣りを受け取り、三人連れ立って建物の中に入っていく。
受付で事情を話すとすぐにスーツに身を包んだ、おそらく警察での身分が高いであろう人がやってきて、両親と何事か受け答えした後に部屋へと案内された。
廊下を歩いていくと様々な部屋があり、警察署内は意外と広いんだなとぼんやり思っていると、「あそこです」とスーツの人がドアを指差した。
そのドアには何も書かれておらず、白くて冷たい感じがした。
ドアの前で立ち止まり、彼が振り返って私たちを見る。
「このドアの向こうにいるのが、あなた方のご家族だという確証は、まだありません。ですが、その可能性は高いです。横暴かもしれませんが、私たちは被害者の少女のことを第一に考えています」
「と、いいますと?」
殆ど反射的にといった雰囲気で、父が訊く。
スーツの人は何も言わずに、スーツの内ポケットに手を入れた。
出てきたのは、どうして入っていたことに気付かなかったんだろうと思うくらい大きな、B5サイズのノート。
表紙には「さんすう」とプリントされ、下には「3年B組 たつみ ひなこ」と書かれていた。
スーツの人に手渡され、よくわからないといった表情で父がノートを開き、私も近くに行って中を覗き込む。
最初の数ページは数式や図形が記載されていたが、途中から何かの儀式かと思ってしまうくらい文字が羅列されている。
よく見ると、「おとうさん」「おかあさん」「るみおねえちゃん」という文字が順番に、ただひたすら書き記されていた。
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