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次の日。
その日は珍しく残業もなく、あのバーへ会社から直行しようと更衣室で着替えていた。
流れてきたその曲を聞いて、何故、消しておかなかったのか後悔した。
流行りの曲。紗耶香の好きな曲じゃない。すでに忘れかけていた、あの人の好きな曲だ。
出ようか、迷った。でも、出たのは未練があったからとかそういうのじゃない。
「もしもし、本郷です。」
かなり、緊張していたせいか、声がすこし震えた。
『紗耶香?これからすこし会えないか?』
電話の向こうからは、あの時と変わらないその人の声がする。なぜか憎らしくなって、吐き捨てたい憎悪が込み上げてきた。それでも、会おうと思ったのは、その憎悪の言葉を直接ぶつけてやりたいと考えたからだ。
「いいわよ。どこに行けばいい?」
『じゃあ、あのバーで。』
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