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「ううん、気にしなぁいで」 「ねぇ、隣いっていい?」 まるで犬のような男だ。断りを入れたが既に座わる気でいる。だが嫌な気はしない。 男の顔は綺麗にととなっている。そのせいで派手だと感じさせてしまうがこの男自体は、派手好きではないのかもしれない。 屈託のない笑顔が、妙に落ち着く気がした。 「いいよ。泥酔おばさんの横でよければ」 紗耶香(さやか)は、笑う。実際酔っ払っているが記憶を失うほどではないし、お持ち帰りされて困るような歳でもない。まぁ、そんな心配はないだろう。ただの取り越し苦労だ。 「もしかして警戒されてる?俺そんなに怪しいかなぁ」 それを読み取ったのか、男はくるくると変わる表情で悲しげに聞いた。 「そうじゃないよ」 「本当?」 紗耶香が頷くと、明るくなる。本当に犬みたいだ。 「ならいいや」 満面の笑みを惜しみ無く振り撒く彼は、意気揚々に、隣の席に滑り込んだ。 「俺、港(みなと)っていいます。おねぇさんは?」 「紗耶香だよ。港は何歳?」 「二十」 ありゃ、思いの外、若かった。 紗耶香は今年で二十八になる。
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