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 「な、なあ」  レストランを出たあと、和哉はタクシーを呼び止め、徹も黙って乗り込んだ。  乗っている時間は十分かそこらだった。  降りた場所は、先程のレストラン周辺と変わらないような、雑多の繁華街。 「池上ってば」  歩きだしてすぐ、また和哉が徹の手を握ってきた。今日は週末である。人の数が異常に多い。 (ここ……)  改めて周囲を確認して、見覚えのある場所であることに、徹は気付いた。タクシーに乗っていた時間はたいしてなかった。それもそのはず。ここはレストランから徒歩で来れば、二十分程で着く位置だったからである。  簡潔に言ってしまうと、同じ繁華街を移動しただけということになる。 「……」  しかし見覚えのある風景は最初だけであった。和哉は何も言わずに、ただ徹の手を引いて歩いていく。  よく来る繁華街だった。けれども歩き回るエリアはいつも決まっていて、今まさに和哉が歩いている場所は、徹にとっては全く知らない、初めての領域だったのである。
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