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「来いよ」
ようやっと和哉が口を開いた。
「う、うん」
徹は従うしかなかった。
「俺はウィスキーをロック、ダブルで。お前は?」
カウンター席につくなり、和哉が注文する。
「俺も、同じので」
とっさに思い浮かばなかったので、真似る形となってしまった。
「お待たせ致しました」
程なくして、グラスが二人の前に、それぞれ出された。和哉はすぐに口をつけたが、徹はじっとグラスを見下ろすだけだった。
「桜井」
「な、何」
「こっち、向けよ」
「何……」
ゆっくりと、徹は隣に視線を移した。
「お前さ……」
しかし、和哉は持ったグラスを見つめていて、二人の視線が合わさることはなかった。
「俺に、用があるんだろ」
「……」
ドキリと、徹の胸が高鳴った。
見透かされて――
「一人集団から離れてさ。高校時代の桜井は、むしろ集団の中に入っていくタイプだった。
ずっと……お前の視線を感じていた。俺と、話したいんだろ?
だからこうやって話しやすい場所を用意してやったんだ。話せよ」
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