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俺と旦那との出会いは、今からニ年前に遡(さかのぼ)る。
阿波藩のお抱え能役者の俺は、他の役者連中と同じく、一年間の舞台の勤めが終わったら次の一年間はまったくの非番になる。
任務から解放されて一息つきたいところだが、そこは悲しい貧乏役者、苦しい家計を支えるためには休みの期間でも何かしら仕事をしなきゃならない。
この俺もご多分に漏れず、といったところか。
俺は、非番の時は歌舞伎の囃子方(はやしかた)の仕事をしていた。
能と歌舞伎では畑が違うが、同じ役者であることには変わりないし、何より庶民の娯楽は俺たちにとっても楽しいものだしな。
だが、俺が囃子方の仕事を選んだ理由は、ただ単に歌舞伎を楽しみたかったからじゃあない。
それだけなら客として芝居小屋に来ればいい話だ。
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