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俺がここで絵を描くのは毎日のこと、今では誰も話しかけてこないのに……と驚いて振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、白髪混じりで恰幅(かっぷく)のいい町人風の男。
それが蔦屋の旦那だった。
「そりゃ、どうも」
まったく、今にして思えば失礼な返事をしたもんだ。
だが、その時は旦那の顔なんて知らなかったし、せっかく気分良く絵を描いていたのを邪魔されたような気になって、ついそんな態度をとっちまったんだ。
しかし、俺のそんな無作法な態度にも動ずることなく、旦那は微笑んだままだった。
「また見に来てもいいかい?」
俺は耳を疑った。
俺は、人よりは少しばかり絵が上手いかもしれないが、決して玄人(くろうど)じゃない。
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