始まりの月

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「ここからの景色は、何処よりも綺麗だよ」 「うん、本当」 ──キレイ‥‥── 彼女は囁くような小さな声で応えてくれた。 二人で同じ空の、同じ円い月を眺めている。 その時間はどれくらいだっただろうか。 僕には世界が止まったように、静かに長い時が流れていた気がした。 「いつも‥‥」 ふいに彼女の声が周りの冷たい空気を揺らす。 「いつもここで?」 月を見てるのか? と解釈し、目線を月から彼女にずらして答える。 「ちょうどここのビルの予備校に通ってて。 この屋上で息抜きするんだ」 「受験勉強?」 「そう‥‥だね。 心がモヤモヤして、イヤな感情でいっぱいになる。 そんな時にここへ来て、‥‥穴を開けるんだ」 彼女は何も言わないけど、僕の言葉をその大きな瞳で優しく包んで聞いてくれてるような気がして、続ける。 「この月を見て、この空に浮かんでる月みたいに円い穴を、イヤな感情でいっぱいになった僕の心に空ける。 そうするとスッキリする‥‥ように思えるんだ」
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