部屋へ

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既に彼の手はテーブルの上の私の手に触れていた。 その手に視線を取られている間に、彼の鼻と私の鼻が当たった。 そして、気付いたら唇が触れていた。 動けなかった。 男性とのキスは何度かはしたことがあった。 拒んだ事もあった。わざと雰囲気を壊した事もあった。 少し熱い位の鼻息が当たる。 突然の出来事に力の抜けている私の口は、彼の侵入を簡単に許してしまっていた。 「ちょ…ちょっと…」 ゆっくりと唇が離れる。 彼の赤い顔の細くなった目は、私を見つめる。 「僕、係長の事が…」 彼の口に手を当てる。 「お願い。それ以上は言わないで。」 彼は少し悲しそうな顔をした。 「社内恋愛は禁止でしょう?」 彼は仕事で私に何度も同行をしていて、仕事に対して私がいかに真剣かをわかっていた。 「わかってね…?」 心臓が壊れそうな位早く、強く響いている。きっとこの音は彼に聞こえているだろう。 「係長…」 今度は私の顔が赤くなっているだろう、隠すように俯き、目だけで彼を見た。 「係長、すみません、でも…その顔で言われても僕、我慢出来ませんよ」 強く抱きしめられた。
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