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筆から仕込み針を引き抜く紅平。柄に手をかける蒼乃助。影は二人の頭上を飛び越えた。地面に腕から着地しごろりと体を半回転させ立ち上がる。背後をとられた。構えながら振り向く紅平と蒼乃助。紅平は仕込み針を握り締めながら目を凝らす。手強そうだ。敵なのか!?相手の姿を確かめる…と紅平は握った手の力を緩めた。
「なんだよ、玄竜のとっつぁんかい」
蒼乃助も柄にかけた手を離した。影の正体。逞しい体躯に坊主頭。一年振りに会う山城玄竜であった。坊主頭をつるりと撫でながら玄竜は言った。
「わははは、久しぶりだな二人とも」
蒼乃助は微笑みながら言った。
「ふふ…玄竜殿、相変わらずの見事なお手並み」
「あっはっはっ!お前らもな!」
紅平は針を筆に戻しながら聞いた
「じゃ、みつさんが頼んだって仕度人はとっつぁんだったのかい?」
「まあな。直接小春…みつさんから話を聞いたのは黄次郎だかな、おい!」
「…」
お堂の中からくすんだ黄色い着物を着た若者がのっそりと出てきた。黄次郎である。
「ば…ば…」
紅平は笑いながら言った
「ああ、黄次郎、いい、いい、お前えは無理して喋ろうとしなくてよ」
蒼乃助も笑う。
「お主の吃りも相変わらずだな」
黄次郎はなおも喋ろうとする。「こ…こ…も…」
と、お堂の中から小桃が現れた。
「へへっこれで久々に五人揃ったね」
紅平は驚いた。
「お前こんなとこで何やってんだよ!?」
「いや、それがさ、仕度人に順繰りに繋ぎとってたら玄さん達が戻ってるって聞いてさ。先に会ってたんだよ…で、みつさんの事すぐに調べようってことになってさ。ホントは昨日の内に伝えようと思ってたんだけど…」
蒼乃助は言った。
「紅平は捕まり私も行方がわからず、伝えようがなかったという訳か」
紅平が尋ねる。
「え?蒼さんどこ行ってたんだよ」
「まあ、それはよい。玄竜殿…どこまで分かっているのだ?みつ殿の恨みとは…?」
「よし、中に入れ。あ、黄次郎、お前は柴倉を張れ」
「バ、バケ…」
紅平が玄竜に尋ねる。
「柴倉が近くにいるのかい?」
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