仕度ノ一「許したくない、ワルがいる」

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こちらは担永寺。紅平が少しだけ声を大きくして言った。 「とっつぁん、やろうぜ!今から踏み込んでもいいや」 玄竜は渋い顔をする。 「しかしな、相手は与力と同心だ。しかも島田は腕が立つようでな。値踏みしたところ島田だけでも四両、柴倉は二両は貰わないとな」 仕度人は仕度料を山分けにはしない。仕留める標的の難易度等で「値踏み」をする。剣の腕が立つ等、難しい標的を相手にする者は高い仕度料を受け取り、雑魚を相手にする者は受け取る仕度料は少なくなる。それが決まりであった。紅平は言った。 「ええ?いいじゃねえかよ、とっつぁん。久しぶりの仕度なんだからよ。俺は柴倉を二分でやってもいいぜ」 玄竜が答える。 「ま、二人ぐらいならお前と蒼乃助でやってもよかろう。わしと黄次郎は助(スケ)に回って一両ずつ貰うか。残りは蒼乃助がとればいい」 蒼乃助はただ、 「私は構わぬ」 と言った。小桃が口を挟んだ。 「あんまり相場を低くしたら元締めがうるさいよ…」 向島の料理屋。じっと天井裏で息を潜める黄次郎。やくざな遊び人、といった風体に姿を変えている。黄次郎が言うには 「おいらのご先祖様は化けるのが上手い乱波だった。だからおいらも変装が上手いんだ」 …どこまで本当から分からぬが化け乱波の黄次郎という通り名の由来はそこにある。と、黄次郎は下の三人以外の気配を感じた。 (女の…呻き声?) 天井裏の黄次郎に気付かず三人は話を続ける…柴倉が得意気に言う 「贅沢品を没収してお前にゴミとして下げ渡す。お前はそれを尾張や長崎で売る…そこから思い付いたのだ。岡場所を取締まり、女をお前に下げ渡す」 「何しろ支度金も何も要りませんからな。いい女郎が安く集まりました」 「くくく…予め評判の良い飯盛り茶屋を調べておいたからな。そこにだけ踏み込んだのだ」 島田が笑った。 「全く柴倉様のお知恵には感心いたします」 「ふ、ふふ、まさか鎌本の娘がいるとは思わなかったがな…さて喜島屋、そろそろ…」
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