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喜島屋はいやらしい笑いを浮かべながら立上がる。
「柴倉様のご希望通り、連れて参りましたよ鎌本の娘…」
襖を開けると隣の座敷には猿轡をかまされ後手に縛られたみつ。鎌本は立ち上がるみつに近付く。
「ふふ、みつ、お前がまさかあのような所に居たとはのう」
柴倉は刀を抜きみつの頬に刃を突き付けた。
「お前を苦海から救ったのは私だ。そうだろう?鎌本殿を亡くされて苦労したのであろうがこれからは私が面倒をみてやる」
言いながら猿轡と縄を切る柴倉。左手でみつを抱き寄せる。もがいて逃れるみつ。
「父上を、父上を殺めておいて何を言うか?」
柴倉は笑う。
「ふはは!お前の父は切腹したのだ!賄賂を恥じてな!」
みつはまたも簪を頭から抜いて構えた
「まだそのような事を!」
「ふん、鎌本も馬鹿な男だったな。誰が政を行おうと、身分がどうであろうと、己の欲を満たす事が大事。金が全てだ。あいつも言う事を聞いて賄賂を受け取り私の仲間になっていれば死なずに済んだのだ」
隣の座敷で喜島屋が笑う。
「柴倉様、切腹に見せかけたのは私の思い付きでしたなあ。あれはうまくいきました」
「うわあぁっ!」
泣き叫びながらみつが柴倉に襲いかかる。軽く身をかわされみつは島田と喜島屋のいる座敷に倒れこんだ。
「私の物にならぬなら、やはり口を塞いでおくか」
みつは起き上がり再び柴倉に一矢報いようと簪を構える。
「!」
天井裏の黄次郎がしまったと思った瞬間、既に島田の刀が抜かれみつを後ろから袈裟がけに斬り付けた。
「あっ!」
微かな悲鳴をあげるみつ。黄次郎は天井を踏み抜き座敷に暴れこんだ。蝋燭を蹴り倒す。暗闇となる座敷。
「何者?」
島田の刀を闇の中ですれすれにかわし、黄次郎はみつを肩に担ぎあげ走り出した。
「待て!」
島田と柴倉は追おうとした。が、料理屋の仲居が
「どうなされました?」
と入ってきた。柴倉は
「いや、酒のうえでの座興が過ぎてな」
と誤魔化すしかなかった。黄次郎は逃げおおせることができたのである。
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