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「はあ、ああいう時流に合わせたのをねえ」
「時流に合わせないでどないします?お上の取り締まりや規制を甘くみたらあきません」
修身読本という蔦屋の教訓読本をそのままいただいた、今で言うパクリ本を書くことで話がまとまり、紅平は取材費としてまとまった金を借りることができた。
こうして2日ぶりに岡場所へと来る事ができたのである。この当時、岡場所は非公認ではあるがそれ故に、幕府が正式に認めた遊郭である本家の吉原をしのぐ勢いで江戸各地で繁盛していた。
今宵は雨も降らず深川は賑わっていた。格子から客引きをする女達。ふと見ると一昨日までの大人しさが嘘のように小春が懸命に客に声を掛けている
「お兄さん?よってらっしゃいな」
(へえ、女はたくましいねえ)
小春は紅平に気づいた
「あら空言屋の旦那?寄ってって下さいな」
「嬉しいねえ小春ちゃん。覚えててくれたんだ?あれ?おたえちゃんは?」
「おたえさんなら昨日辞めました。なんでも今度は千住の方で働くんだとか」
「引き抜きでもされたかね?まあいいや今晩も小春ちゃんだ」
「本当?嬉しいわ、紅平さん」
酒もそこそこに床に入る二人。もう小春は涙を流すこともなく紅平に応じるのであった。
(やはり、女は怖え)
と紅平は思ったものだ。煙草をやらない紅平はまたも安酒をちびりちびりとやりながら床の中で小春に聞いた
「あのよう、仕度人のことなんだけどさ・・・」
小春は笑顔で答えた
「あ、いいんです。もう」
「え?晴らしたい恨みがあるんじゃなかったの?」
小春は少し戸惑ったような表情をしながら笑った
「いいんです。もう。あの、ねえ本当は喋っちゃいけないのかもしれないけど、見つかったんです」
「え?」
紅平は驚いた。いつの間に?仕度人の絶対人数は決して多い訳ではない。昨日の今日で、簡単に仕度人が見つかるものではない。元締が感付いたのか?それとも小桃がつないだ仕度人がここに現われたか?
「あの、紅平さん、これ以上は聞かないで下さいね。仕度人さんに迷惑がかかっちゃいますから」
「あ、ああ、」
いぶかしく思う紅平だった。もしかして仕度人を語る奴が小春を騙しているのではなかろうか?
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