仕度ノ一「許したくない、ワルがいる」

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曇る表情の紅平に小春はしがみつく 「だから紅平さん、また来て下さいね。絶対よ。私もっともっと稼ぎたいんです。仕度料を溜めなくちゃ。一杯稼いで・・・」 語尾を濁して更にしがみつく小春。紅平は無理に笑いながら尋ねた 「稼いで誰を殺ってもらうんだい?」 「ふふ、それは秘密よ。でも紅平さんだからちょっとだけ教えてあげる。父の、父上の敵なんです」 「やっぱり小春ちゃん、お武家の出なんだ?」 「そんなところかしら?」 と、その時表から男が叫ぶのが聞こえた 「逃げろ!奉行所だ!取り締まりだぞ!!」 「え?」 障子窓を開けると何十もの御用提灯が見える。先頭を走る与力や同心の姿。 「うわ、やべえなあ逃げようぜ小春ちゃん」 慌てて着物を探す紅平。獲り方達はめいめいに別れて目をつけた店に踏み込んでゆく。逃げようとする紅平に小春は巾着袋を押し付けた。実際の歴史においても松平定信の華美を禁じ、淫風をおさえる政策は岡場所の存在を許さなかった。寛政年間における禁令により一時期岡場所は衰退してしまうのである。 「紅平さん!お願い、このお金預かって下さい!お役人に捕まったら取り上げられる」 「え?俺がネコババしたらどうするんだよ?」 「私、今は紅平さんを信じるしかないんです。中に手紙が入っています。書いてあるとこに持っていって下さい!足りないかも、足りないかもしれないけど・・・」 「分かった。信じてくれてありがとね」 この座敷にも獲り方が押し入ってきた。半裸のまま立ち尽くす紅平と小春。 「神妙にしろ!」 と叫びながら、先ほど先頭に立っていた与力らしき男が、十手を振りかざしながら入ってきた。男の顔を見て驚く小春 「お前は!柴倉!」 「なに?売女に知り合いなどおらぬが?ん?お前、鎌本の娘か?」 簪を引き抜き役人に襲い掛かろうとする小春。紅平は直感した。こいつか。
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