仕度ノ一「許したくない、ワルがいる」

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小春は叫んだ。 「鎌本重三郎が娘、鎌本みつである!父の敵!柴倉重村、覚悟!」 紅平は思わず小春、いや“みつ”の腕を掴んだ。 「やめるんだ小春ちゃん」 「離して紅平さん!」実際、もし紅平が止めなければ“みつ”はその場で柴倉に斬り捨てられていたであろう。獲り方に縄を掛けられるみつ。嘲笑う柴倉 「とんだところで再会したなあ。鎌本殿もさぞやあの世でお嘆きだろうよ。おい、客も捕らえろ!」 「あ、このやろ、何するんだよ?」 半裸のまま紅平もまた捕らえられた。その夜、何人もの客と遊女達が捕らえられたのだった。男と女達の列は途中で別れ別れとなった。縄に引かれながら紅平は思った。 (あ?小春ちゃん、いや、みつさん達はどこへ連れていかれるんだろう?) 紅平は、自分にかけられた縄を持つ役人に聞いてみた。 「ね?女は行く先が違うの?」 役人は言った。 「うるさい!お前らが気にすることでは無い!」 深川で捕まった客達に対して特にきつい仕置きはなかった。番屋に一晩泊められ、説諭のみで翌朝解き放たれた。紅平も、小春…いや鎌本みつから預かった巾着を、特に詮索されることなく解き放たれたのだった。 紅平がまず心配したのはみつのことであった。 (女の子たちは奉行所まで連れてかれたのかなあ?) 紅平は奉行所へと向かった。途中、後ろから蒼乃助が声をかけてきた 「紅平、無事だったか?」 「蒼さん、知ってたの?」 「市中では昨日の深川での取締りが噂になっている」 「ね?捕まった女の子たちがどうなったか知らねえかい?」 「うむ。それなのだが、どうも吉原に移されたらしい」 「え?なんだよそれ」 「店主らはお裁きにかけられるが女達は同情するところもあり罪は問わずしかるべき場所で働かせるということらしいな」 「まあ小春ちゃん、いやみつ…みつさんが無事ならなんでもいいけどよ」 紅平の長屋で、蒼乃助と二人で巾着の中身を確かめた。紅平は言った。 「三両と二分と八百文か。これだけ貯めるのも苦労したんだろうなあ。あの遊郭から貰った支度金も入ってるんだと思うぜ。自分の身を売った支度金で仕度料か。嫌な洒落だよ」 蒼乃助が言う。 「与力一人の値段ならこんなものか。その手紙にはなんと?」 「どれ…なんでえ、『向島、担永寺』て書いてあるだけだ」 「それだけか。ふむ…そこに仕度人がいる、ということか」
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