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「どんな連中だろうな?この仕度、どっちがやるのか会わなきゃなるめえよ。みつさんからどんな頼みを受けたのかも聞きてえしな」
「与力なら面白い。斬り甲斐がある」
「おっと。こっちの仕度になったらあの野郎は俺がやるよ」
「ふ、ふふ。それもよかろう。まずは担永寺に行くか」
「ああ。ところで腹も減ったな。小桃の茶屋でなんか食わせてもらうか」
「小桃ならば今日は店を閉めておる」
「なんでえ。しゃあない蕎麦でも食いにいくか」
向島に着いた頃には日もとっぷりと暮れていた。担永寺への道を二人は歩く。人通りの無い暗い道だった。道を教えてくれた船頭の話では、
「あそこは住職も誰もいねえぼろぼろの荒れ寺でさあ」
とのことだった。二人は崩れた壁と門を見つけた。寺と言ってもお堂が一つあるきり。蒼乃助は紅平に言った
「仕度人の隠れ家としては格好のようだな…む?」
蒼乃助はお堂の観音開きの扉から頼りなげな光が漏れるのに気付いた。
「誰かいるようだな…」
「へへっ、会いにきたんだ。誰かいてくれなきゃ困るってもんだ」
二人は門をくぐった。蒼乃助は気配を探る。
「中にいるのは一人ではない」
紅平は懐の矢立てから筆を取り出した。蒼乃助は涼しげな表情のままであったが鞘を左手で握った。どこかで犬の遠吠えが聞こえた。と、お堂の灯りがふっ…と消えた。次の刹那、扉が激しい音をたてて開き、黒い影が飛び出した。
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