one third

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「とにかく、だんまりは終わりにして本格的に始めるとしようか。それに今回は力を見せつけるには丁度良いしね。戦力を1カ所に集中させる・・・丁度良い作戦だ」 「確か・・・表面上は3つの国を狙うと見せかけ、実際は分散させる筈だった戦力を1つの国に向かわせる、という話でしたね?」 「向かわせなかった2ヵ国には無駄に防衛の準備をさせて申し訳ないけど、集中させた国は全力で我々を撃退しなければいけない訳だからねぇ。何処の国も前回の戦闘を動画とかで確認して、自国に攻めて来た場合の対策はしているだろうけれど、予想より3倍の敵が向かってくるんだからたまったもんじゃないよね。僕だったら絶対逃げ出しちゃうなぁ」  秋山は笑いながら手を振ってその場で走るようなジェスチャーをする。キューブを発見しラウンドアイランドを建設した秋山は、その功績からラウンドアイランド管理会社の社長になり、今や世界を敵に回したセントラルのリーダーだ。そんな人間が簡単に「逃げる」と言ってしまう事にバルツは頭を抱えた。 「・・・」 「おやバルツ君、どうかしたかい?」 「いえ、大丈夫です続けてください」 「具合が悪かったりするなら言ってくれていいからね? ・・・それでまぁ、嘘をついて1ヶ所にしか向かわない訳だから当然他の2ヶ国には何も来ない訳だ。此処でキーになるのが――――」 「リンツオーゲンの部隊・・・ですか」 「そうだよバルツ君!」  秋山は勢いよく右手の人差し指をバルツに向けた。 「彼らが世界にとってどう思われてるのかはまだ良く解らないけど、少なくとも僕らに対抗する集団ぐらいには思われてる筈。今回も必ず出てくる、嫌出てこなければいけないんだ彼らは」 「リンツオーゲンが部隊を送っていない2ヶ国に向かえば無駄足を踏み我々は侵攻がしやすくなり、もしかち合ったとしても戦力は前回の3倍。Qシリーズが2機いようとも簡単には攻略出来ない・・・」 「どう転んでも厳しい戦いになるけど、正義の味方に苦難は付き物だから頑張ってほしいね。逆に、此処で倒れるようならそこまでだったって事さ」  秋山がサラリと言った正義の味方、という言葉にバルツは顔を曇らせた。 (リンツオーゲンが正義の味方なら、我々セントラルは悪側になるのだろか・・・) 「さてと、段取りも確認できたしバルツ君、そろそろ行こうか」  秋山は椅子から立ち上がると、その場で軽く背伸びをする。 「・・・そろそろ行くとは、まさか今からという事ですか?」 「ん? 勿論そうだけど。僕はやると言ったらやる男だからね」 「それは、素晴らしい事ですが・・・余りにも急なので少々準備に手間取ってしまうかと・・・まず、各所に連絡を入れなければ」 「えーそうなのかい!? 折角やる気を入れたのに」  秋山は大きく肩を落とし、ゆっくりと椅子に座りなおしてしまった。しかし、バルツにとっては本当に急すぎる為こう言うしかない。予想では明日以降だろうと思っていたが、まさか本日、しかも今すぐとは考えてもいなかったので肝心の世界中への放送の準備もしていなかった。 「今から急がせますのであまり時間はかからないとは思いますが・・・しかし本日中には何とか間に合わせます」 「確かに、誰も見てないのにコレ投げても意味ないからねぇ」  秋山は先ほど渡されたダーツの矢を手に取りながら呟く。そもそも世界に知らせる必要は無いのでは、と何度かバルツや他の隊員が意見しているが「そんなんじゃ駄目だよ面白くない」と秋山は首を縦に振らない。 「どうしても少々お待ちいただくとは思いますが・・・それでは今から各所に通達しようと思いますので一旦失礼します。準備が整い次第ご連絡するので」 「ま、呼ばれるまでゲームでもしてるから心配しないで良いさ。頼んだよバルツ君」  そう言うと秋山は机の引き出しから携帯ゲーム機を取り出し、電源を入れる。バルツは椅子から立ち上がり軽く会釈をすると、足早に出口に向かい身体の大きさに見合わない繊細な動きでドアを開け社長室を後にした。  ドアが閉まり完全にバルツの気配が消えたのを確認すると、秋山は椅子を回転させ背後の窓の外に視線を向ける。外はもう日が落ちてきていた。 「正義の味方・・・ね」  秋山はポツリと呟くと、先ほど点けたばかりのゲーム機の電源を落とした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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