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「ごめんねカグヤちゃん。ママ、一緒に行けそうにないわ」
ベッドに横たわっている母親を見つめながら、その娘・福圓夜月は首をふるふると左右に振った。
「カグヤちゃんのせっかくの入学式なのにね」
母親はさも残念そうにはぁっとため息をつく。
と、扉を開けて何者かが入ってきた。
「あなた」
カグヤの父親であった。
だがカグヤは母親に手を振って『いってきます』と表し、部屋から出た。
そして自室へと向かうため、廊下を歩いて階段へ。2階に下りて廊下を進む。
(パパなんてどうせ、私のことなんか……)
やがて自室につき、宝物である犬のぬいぐるみを手に取る。
(…………)
昔、近所の男の子にもらった大切なもの。
――これ、ママに買ってもらったけど君にあげる。
その男の子はそんなことを言っていたが、それ以来会っていない。
いや、会わせてもらってない。
犬のぬいぐるみを抱きしめる。
(あの男の子……今頃どうしてるかな……)
お互い、名前も知らなければどこに住んでいるかさえもわからない。
本棚から本を取り、それを鞄に入れてチャックを閉める。
(まだちょっと早いけど、家にいたらパパがうるさいし、もう行こっと)
思い、カグヤは部屋から出た。
「なんだカグヤ。もう行くのか」
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