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「いえ。来ていないけど、どうしたの?」
聞かれて朝陽は口篭(くちごも)る。
「あの……その……」
キスをしようとして嫌われた、なんて福圓の母親にどう説明しろというのか。
――妹がいるって言ってなかった?
「…………」
気になることを思い出し、朝陽はそれを尋ねた。
「それより、どうしてあんなこと聞いたんですか?」
「あんなこと?」
「妹がいるって言ってなかったか、と聞いてきましたよね」
母親は俯き、何も答えない。
「……もしかして、俺はあなたと関わりがあるんじゃないですか?」
びくっとして母親は顔を上げた。
どうやら朝陽の考えは的中していたようだ。
「俺は今の親の本当の息子じゃない。そして俺は昔、あなたと会ったことがある気がするんです」
そう。つまり福圓の母親であるこの女性は――
「あなたは俺の本当の母親ですか?」
朝陽と母親の視線が交差する。
しばらく黙り込んでいた母親だが、やがて話をすり替えた。
「……夜月と何があったかわからないけど、今日はもう帰りなさい」
「なっ……」
どうして答えてくれないのか、と朝陽は叫びたかった。
「…………」
しかし、叫ばなかった。
「……福圓に、ごめん、と言っておいて下さい」
それだけ伝言し、朝陽は福圓の屋敷から出ていった。
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