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懐かしい匂いが鼻を掠めた
あれはいつか君と共有した匂いだ
あまりの懐かしさに涙が零れ落ちる
ただ一筋、そっと滑らかに―――
君が瞼の裏に蘇る
そして思った――瞼を上げれば君がそこにいるんじゃないかと
……ほら、やっぱり君はいない
あれは瞼の裏の幻
君はここにいない
何故あんな匂いがしたのだろう
そうすれば君を思い出すことなんてなかったのに……
――あの匂いは君? 君なのか?
そんなはずはない
だけど本当に君ならばどうか教えて
――一陣の風があの匂いを連れてきた
あぁ……君なんだね?
逢いに来てくれたんだね?
ありがとう、もう平気だ
君が傍にいてくれていると分かったから
生きることができるよ
いつか辛くなった時、また君を感じさせて
きっと強くなれるから
――春の、温かい風に包まれた
君がいる、君も生きているんだね
また涙が頬を伝った
あまりの優しさに
あまりの切なさに
あまりの嬉しさに
……もう平気だ
風もあの匂いもどこかへ還った
心に幸せが広がる
――もう、平気だよ――
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