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帽子屋の背後に巨大なカニが姿を見せた。
シルクハットの埃をはらっていた帽子屋は気づかない。
白うさぎは論外だ。
「おまえ、後ろ!」
「後ろ?」
帽子屋はシルクハットをかぶりながら、背後をむいた。
カニがハサミを振り上げている。
「あっ」
小さな声がアリスのもとに届く前にハサミが帽子屋の上に落とされた。
衝撃で埃が舞う。
「帽子屋…っ」
「あぁワタシの帽子屋が壊れてしまった……」
どこか脳天気にも聞こえる声が、先ほど帽子屋が立っていた場所から聞こえた。
「白うさぎ、王は迎えをよこす気はないらしいぞ?」
「ひどいよぉ」
「まったく…」
埃がおさまると、そこには巨大な刀でカニのハサミを食い止める帽子屋の姿があった。
アリスは目を見開く。
わからない。
いつの間に、あんな巨大な刀を持っていたのか。
「こいつはワタシたちのような物語の世界の住人を食らう化け物だ」
「普段なら出てこないのに!」
白うさぎの悲鳴じみた声にアリスは疲れたように息を吐き出した。
帽子屋は刀を凪ぐ。
カニのハサミが2つに割れた。
緑色の体液が帽子屋に降りかかる。
「白うさぎ、アリスを連れて先に行け。こいつはワタシに任せろ」
「わかってるわよ。アリス、こっちに」
「おまえ、迷子だろ」
「大丈夫だから」
白うさぎはアリスの手をひいていく。
アリスは遠くになった帽子屋を不安そうに見た。
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