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「アリス、本当に知らなかったのか」
友人が心底驚いたようにアリスの顔を凝視した。
「知るわけないだろ。第一不思議の国ってのは女が好むものじゃないか」
そういうものだったはずだ。
「違うって。この世のどこかにある男の楽園だ」
「男の楽園…」
「なぁ夏休みに入ったら探しに行こうぜ」
面倒だ。
楽園なんてあるわけないし、あったとしてもどうでもいい。
アリスはそう思っていた。
「なぁアリス~探そうぜ~」
「しつけぇ」
友人を押しのけ、ひとり家への道を歩む。
『お兄ちゃん…』
「ちっ…あのばか余計なことを」
不思議の国。
それは今若者たちの間でまことしやかに噂される国。
住人は数々の童話に登場するものたちで、選ばれた数人だけが行ける場所らしい。
選ばれるための理由はただ一つ…
強い《望み》を持つこと
「死んだ人間は二度と戻ってこない…」
「もう一度会えるかもよ?」
突然の言葉にアリスは顔をあげた。
まだ4月のはじめ。
桜が舞う道の真ん中に赤いパラソルをさした少女がたっていた。
「あなたは死んでしまった人に会いたいのね。会えるわよ」
「なんだ、お前」
「ワタシはただの案内人。不思議の国へあなたを誘うの」
少女は赤い唇に笑みを浮かべた。
「あなたも迷いましょう?」
少女がアリスに手をさしのべる。
少女の得体の知れなさにアリスは体が震えるのを感じた。
「行かないの」
逃げなければ。
アリスはそう思った。
必死で動かない足を動かし、少女に背を向けて走り出す。
少女の気配がなくなるまで、アリスは走った。
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